1995年に完成したS邸は築23年、埼玉県の郊外に建っています。竣工当時の思い出話を聞けば、とにかく予算がなくて苦労しましたねと、顔を見合わせる建主のSさんと半田さん。予算がないとはいえ、随所にこだわりと素敵なアイデアが満載のお宅です。
こちらのお宅は、つい最近、リノベーション工事が終わったばかり。建てたときは小学生だったお子さんたちもそれぞれ社会人となり家を出た。23年という歳月、子どもたちの成長があり、家族の関係も生活も変わっていきます。
実は以前にもリノベーションをやっておられます。そのたびに、子どもたちの成長に合わせ、家族の変化があり、自分たちの生活を見直してきました。寝室一つで、親子が川の字になって寝ていた時代から、子供部屋というか子供スペースを確保するために二階のリビングの一角に間仕切り壁を設けたのが最初のリフォームでした。 そして、今回は、夫婦二人きりになっての時間をじっくりと過ごすためのリフォームです。1回目の工事で取り付けた子供スペースの間仕切壁を取って、そこに薪ストーブをおきました。これからは、ご夫婦二人で冬の夜にストーブの火を見ながら過ごす豊かな時間がそこにはうまれることでしょう。リフォームを重ねさらに上質な空間を楽しみたいと思ったそうです。
1階にもうけたもう一つの子供室は、ご夫婦の寝室とのあいだの間仕切壁を取ってひと部屋としました。そこに、ご主人の書斎を新たに設けています。聞けば、今までご主人専用のスペースはなかったそうです。寝室まわりは、収納も整理して使いやすくしています。生活が変わっていくタイミングで、この場合は子供さんたちが育ったタイミングで、自分たちの身の回りのものを整理して収納を考え直すのは自分たちの暮らしを見つめ直すことであり、それは大切なことだと思います。
さて、木造住宅というのは20年ほどで減価償却してしまい、資産価値の評価はゼロになってしまいます。だから、築23年であれば、建て替えたほうが良いという話も出てきます。しかし、Sさんご家族は建て替えるのではなくリノベーションすることを選びました。それは、やはりこの住宅が住まい手に愛されていることの証だと思います。Sさんはこの家を家族と一緒に育ててきたと言います。家族の歴史が家にしっかりと刻まれています。その刻まれた歴史をリセットしたくなかったのです。そこには愛があります。愛は資産価値より勝ります。家は資産価値だけでは評価できないのですね。
ところで、こうして愛される住宅の設計を実現した要因の一つはプランのシンプルさにあります。
8畳間を基本形としたシンプルな骨組みの中でプランは作られています。骨組みがシンプルということは、構造的にも安定しているということですし、さらには変わっていく生活に柔軟に対応できることなのです。最近の半田さんが展開されている活動の萌芽が既に此の時からあったのだなと思いました。
取材日:2018年3月28日
(設計:半田雅俊設計事務所・半田雅俊/レポート:アトリエフルカワ・古川泰司)
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